『学力』の経済学/中室牧子
私は昔、学習能力や地頭に生まれつきの差はなく、努力や学習効率、学習環境が影響をもつと考えていた。しかし、医学部へ入学してから、地頭の差、能力の差は間違いなく存在することを感じるようになった。
この本では、その理由が統計学的に、経済学的に示されている。
そして今の日本の教育がどれほど合理性に欠き、感覚的なものであるかを実感した。
要点
教育は一億総評論家状態
→なぜか教育の素人でも自分の意見を述べたがる
だからこそ教育経済学的なデータを知る事が肝要
一個人の経験則など何の意味も持たぬ
- 目の前のニンジン作戦 ○
→遠い将来のことなら冷静な判断できるが、近い将来のことだと目先の利益を優先してしまう(双極割引)
- テストでいい点取れたらご褒美 ×
一時間勉強したらご褒美 ○
→インプットアウトプットアプローチ。
インプットに対してご褒美を出す方が成績は伸びる
しかし、勉強の方法をしっかり教えてあげると、テストでいい点取れたらご褒美でも効果○に
- 子供が小さいうちは、ご褒美としてお金以外のものが良い ○
- 中高生以上ではお金をご褒美に設定した方が良い ○
- 自尊心が高い子ほど学力が高い ×逆
- 学生の自尊心を高めるような介入(やればできるのよ、とか)は成績を高める ×
→無闇に褒めると実力の伴わないナルシストが育つだけ
- 子供の元々の能力を褒めると、意欲が上がり成績が上がる ×
→努力を褒める ○
子供を褒めるときは、具体的な内容で(一時間勉強できたんだね、遅刻一回もなかったね)
- テレビゲームそのものが子供に与える負の影響は大きい ×
- 暴力的なゲームをすると暴力的になる ×
→しかもテレビゲームを一時間やめさせたところで勉強時間は平均2分しか伸びない…
- 『勉強しなさい』と言うのは効果がない ○
→母が娘に言うのは逆効果にすらなる
- 『勉強を見ている』、『勉強する時間を守らす』は効果がある ○
→その役は親である必要性はあまりない。誰でもおk
- 子供と同性の親が関わるとより効果的 ○
- 正の/負の ピアエフェクト→周囲から受ける影響を総じてこう言う
- 学力の高い友達の中にいると学力に関してプラスの影響ある ○
→ただし元々の学力が高かった子供のみ。元々低かった子供は逆効果に。
- 問題児からは学力に関してマイナスの影響を受ける ○
→つまり学力別にクラス分けすることは意味がある。学齢が低いときには学力下がることもあり注意
- 類は友を呼ぶ→学力に関しては ×、行動に関しては ○
- 女子の方が成績は良い ○
→原因不明、理数系は学年が上がるごとに男子の点数が高くなる傾向にある
- 子供や若者は飲酒、喫煙、暴力行為、ドラッグ、カンニングなど反社会的な行為については友人からの影響を受けやすい ○
- 教育への投資のベストタイミングは小学校入学前の幼児教育である ○
→認知能力(学力)は△だが、非認知能力(忍耐力、社会性、意欲など)は生涯通じて差がでる
→結果、将来の年収や学歴に大きく影響する
- 非認知能力への投資は子供の成功にとって非常に重要である ○
→部活動、課外活動、社会奉仕活動、アウトドア活動などが有効
→定期試験のためにそれらをやめさせることには慎重になるべき
- しつけ(嘘はダメ、他人を大切にする、ルール守る、勉強する)を受けた人は平均年収高い ○
→勤勉性が因果関係あり
- 少人数学級は学力上がる ×
→多少は学力上がるけど費用対効果低い
→学歴と年収のデータによる教育の収益率を親と子供に説明すると成績上がった
(正しい教育の収益率を知るだけ…費用対効果高い)
- 高校卒業後すぐに働き始めた人と、大学を卒業してから働き始めた人では、生涯年収に1億円もの差がでる ○
- 子供の学力の50%が家庭や本人の要因で決定される ○
- 中学3年生時点の学力の35%は遺伝によって説明される ○
- 生まれ月、生まれ順、出生体重が子供の学力や最終学歴に因果関係をもつ ○
- 学校の資源は家庭の資源に比べ、有意な影響を与えない ○
→全国学力テストの件別順位などくそくらえ
→学力の分析の本質は、アウトプットである成績とインプットである家庭の資源、学校の資源の関係を明らかにし、何に重点的に投資をすれば子供の学力を上げられるかを示すことにある
→家庭の資源に格差があるため、過度な平等主義で全ての子供達に平等な教育を行うと格差が拡大していくだけ
- 親の学歴による学習時間の格差は子供の学年が上がるほど拡大していく傾向にある ○
→親の学歴が低いために子供が十分な教育を受けられないことを貧困の世代間格差と言う
- 親への補助金(こども手当的な)は学力の向上に因果関係をもつ ×
→家庭の資源による格差を親への所得移転によって解決するのは注意が必要
→なら学校の資源配分を変えることは有効か?
- 平等な教育(手をつないでゴールしよう的な運動会とか)の影響を受けた人は、他人を思いやり、親切にしあおうと言う気持ちに長けた大人になる ×
→むしろ欠ける。本来、遺伝や家庭の資源などの格差が存在するにも関わらず、成功しない人は努力が足りないからだ(生まれつきの能力に差はないと考えてる)と考えてしまうため。
- 家庭の資源など子供自身では変えられない問題を解決できるポテンシャルを持つのは教員である ○
→教員は教育の要。遺伝や家庭の資源をひっくり返すパワーを持つ。
教員の質は、付加価値(子供の学力の伸び)で見るとバイアスが少なく因果関係を捉えるのに役立つ ○
じゃあ
- 教員の給与を上げてみる→教員の質は改善なし
- 教員に一旦ボーナス与えて、成績の伸びなければ返却する→教員の質は改善あり(損失回避)
- 教員研修→教員の質は改善なし
- 教員免許制度なくす→教員の質は改善あり(優秀な人の転職妨げてた)